農業技術の匠、鈴鹿ポートリー近藤社長の土づくり講座をお届けします。

連載10「土を知ろう⑦ 土のイーシー」


土の電気伝導率は、土の中の塩類の集積状態を把握するための重要な指標です。

土の電気伝導率は「EC:イーシー」と呼ばれ、農家の方なら誰でも馴染みの

ある用語として知られています。

畜産農家である私は土の勉強をするまで、全く知らない用語でした。

CEC(シーイーシ:陽イオン交換容量)と良く混同し、間違える方も

多いので注意してください。

さてECは、土壌中の塩類が多いほどプラスのイオンやマイナスのイオンが

存在するため、電気が流れやすくなり、その結果電気抵抗が小さくなるので、

ECが高くなるといった具合に表現されます。ちょっと難しいかもしれませんね。

言い換えるとECは、土の中の塩類濃度や肥料の残存量を知るための

バロメーターなのです。


最近ではこのECを簡易に測定できるペン型の機器なども市販されているので

ぜひ一度お使いいただきたいと思います。簡単に測れるはずです。


では、このECの見方は? どの程度の値がいいのでしょうか?


土の中のECは、肥料を撒いた後を除いてはだいたい0.2から0.5ぐらいの値

が適当です。1.0以上ではその濃度が濃く、作物が障害を受ける可能性があります。


化学肥料はECを高めやすく、有機質肥料は高めにくいなどといった噂をよく

耳にしますが、有機質肥料であってもたくさん撒けば化学肥料以上にECが高まります。


無駄な肥料や堆肥(有機物)を土壌に入れないことが

土を守る技術と言えるのかもしれませんね。

連載 9「土を知ろう⑥ 土の塩」

 

しょっぱい。高血圧症には良くない食塩(しょくえん)は、食品中に含まれる最も身近な塩類です

この食塩の正体は、塩化ナトリウムであり、土の塩もこの塩化ナトリウムである「食塩」と同じ

だろうという方は多いでしょう。

実は、土の塩はほとんどが土壌改良資材や化学肥料由来のものなのです。

化学肥料の多くは塩そのもので、硫安(硫酸アンモニウム)や塩加(塩化カリウム)

などがその代表です。

 

したがって、皆さんがよく気にされる塩類は、作物の生育にとって必要不可欠な

養分そのものということになります。

しかし、現状では露地栽培ではこの塩が土壌に残留することはあまりありませんが、

雨水が進入できないハウスでは、施肥する度に塩が蓄えられています。

 

では、土の中ではどのようなことが起きているのか考えてみることにしましょう。

 

たとえば、塩化カリウムを土に施すと、水に溶けて塩素イオンとカリウムイオン

に分かれます。

マイナスイオンである塩素イオンは土に吸着されにくいのですが、カリウムイオン

の多くは土に吸着されている交換性のプラスイオンと交換されます。

交換する相手はプラスイオンで多量に存在しているカルシウムイオンであること

が多く、その結果土の中には塩化カルシウムという塩が作られるのです。

 

土壌からはずれたカルシウムイオンは、水に溶けやすいカルシウムと呼ばれ、

植物の根から吸収されたり、雨水によって流れてしまいます。露地では流れ、

ハウスでは貯まってしまうの塩。おもしろいですね。

 

連載 8「土を知ろう⑤ 土のペーハー」

 

皆さんの多くは日本の土壌が酸性であることは良くご存知のことと思います。

酸性と言っても土を舐めて、梅干しのように酸っぱいわけではありません。

日本の土は、どうして酸性になってしまうのでしょうか。

その理由は、日本は雨が多いからと答える人も多いことでしょう。


土の酸性は、「pH:ペーハー」と呼ばれる値で示されますが、

実はこの言葉はドイツ語であるため現在では、英語読みの「ピーエイチ」

が正しい呼び名として使われています。


一般化学の世界では、pH7を中性、7未満を酸性、7以上をアルカリ性と

いいますが、農業の世界ではpH6.5程度が中性で、6以下を酸性としています。

これは、多くの作物がpH6~6.5で最も生育が良く、それ以上ではホウ素などの

微量要素欠乏が発生する可能性があるからなのです。

土壌の酸性を測定するためには、土壌の水懸濁液(けんだくえき)のpHを測る

のですが、塩化カリウムを用いて測定する場合があり、この値は水で測定する

数値よりも1程度低くなるため、無駄な土壌改良資材を売りつけようとこの数値

を使う業者もあるようですので、注意してください。



通常、土の酸性を示す値は、まず水pH(ピーエイチ)のものと考えてください。



連載 7「土を知ろう④ 腹八分目」


健康を保つためには、まずおいしいバランスの良い食事を摂ることが大切です。

私も若い時のようになんでも食べられなくなってきています。

もちろん、お酒の量も年々減っています。健康が一番です。

また、最近では、胃に負担をかけ胃潰瘍になる方も少なくありません。

 

土の健康も実は、全く人間と同じなのです。

土の食事は、いわゆる有機質肥料や土壌改良資材であり、具体的にはアンモニア(窒素)、

石灰や苦土、加里などがあります。

有機質有機質肥料として必要なものは、とくに窒素と加里なのですが、その量から見ると

石灰>苦土>加里の順で、この三つは水に溶けるとアルカリ性になるので、

「塩基(えんき)」と呼ばれています。


また、前回に紹介した「土の胃袋」の中には、この石灰、苦土、加里の三成分

でほぼ満たされていると考えてください。


一般的に野菜をつくるための理想的な塩基の量は、胃袋(CEC)に占める塩基の

割合が80%程度であり、この胃袋占める塩基の割合のことを「塩基飽和度」と言います。

この塩基飽和度が理解できれば、石灰や苦土の施用法も気になるところですが、

またのお話にしたいと思います。このように、土の健康も人の健康もことわざにあるように

「腹八分目」が一番良さそうです。



長生き、土づくりのヒントは、「腹八分目」だと思います。



連載 6「土を知ろう③ 土にも胃袋がある!」



 

人間は多くの臓器で構成されています。中でも食事の後に一生懸命に働く器官が「胃」です。

胃が満足(満腹は頭で感じるのですが、比喩です。)できる食事の量は個人によってさまざまです。

 

実は、土にも人間と同じように「胃」が存在します。有機質肥料などの養分を貯える性質とお考えください。

 

一般的には、これらを私たちは「肥(こえ)持ち」と呼んでいます。

正しい用語としては、保肥力(ほひりょく)やCEC(シーイーシー)という英語の頭文字が使われています。

土壌が養分を貯える力の源は、少し難しいのですが、粘土鉱物と腐植です。間接的には土壌微生物も

関与していると考えられているそうです。では、どのように蓄えているのか考えてみましょう。


少し掘り下げるので、難しい表現もありますが、土(粘土鉱物)の表面は磁石のマイナス

になっているそうです。


土に撒かれる窒素やリン酸などの肥料成分は水に溶けるとプラスになる性質を持っているので、

この粘土鉱物のマイナスに引っ付きます。磁石の原理ですね。マイナスの大きさが土壌によって

異なるので、肥料成分が流れやすい土や、流れにくい土があると考えてください。土壌を勉強

するといろいろなことがわかってきますね。


ちなみに、作物を作る場合の土壌のCEC目標値は15以上と考え、極端に少ない場合

は有機質肥料や土壌改良資材を投入するなどの対策を行うことになります。



連載 5「土を知ろう② よくある話「腐植」」


今回は、土壌の細かな機能などについて紹介していきます。

私も勉強したての時はさっぱりわからないことばかりでしたが、内容を深めていくうちに大変興味

深くなってきました。

多くの耕種農家さんが「土の腐植を増やすには有機質肥料を大量に入れれば良い」と信じています。

もちろん、私のお客さんにも鶏糞を入れると腐植が増えるからなあ!と呟いて、

お帰りになる方もお見えになります。

土壌の中の有機物は、腐植以外にも粗大有機物というものが含まれています。

これらは、植物の根や残さ、有機質肥料などが土壌に施用されて、土壌微生物による

分解を受けたもので、肥料成分の供給や土壌の物理性を改善するなどの働きを

担っています。

さらに、本当に永い年月をかけて最終的には腐植の材料になっていくそうです。


また、有機物を施用すると土壌微生物が増えて、土の肥料成分を貯めておく役割

を果たしてくれます。

要するに、有機質肥料などの有機物を施用する目的としては、土壌の「腐植」を増やすことよりも、

土壌微生物においしい「エサ」を供給することと考えれば合点がいきます。

このように考えれば、まんざら有機質肥料を撒くことも苦にはなりませんし、

大量に撒くこと意味がないことも理解できるはずです。

また緑肥も一つの有機物を投入する手段であることを少し念頭に置いておくと

きっと良いことがあるかもしれません。

 

 



連載 4「土を知ろう① 土の誕生」

 

 

4月になりました。ドライブでは桜を。周辺では、ピカピカの新一年生がランドセルを背負って、

新しい出発をしていましたね。

 

さて、土は地球上の陸地の表面を覆っている「地球のアカ」と言えますが、土ができるまで

には数百年から数千年もの時間がかかります。


その土地にどのような土壌ができるかは、植物や動物、微生物の種類、気候や地形などの

自然条件によって決まっているそうです。一方で、人の手によって作り上げられた土壌

も少なくありません。

米を育てている日本の多くの水田はまさに人が手を加えた芸術的な作品土壌と言えるで

しょう。野菜が大きく育つような土壌にするために土をさまざまな資材や有機質肥料などに

よって改良した土壌もそうです。

 

しかし、最近ではその改良が行き過ぎて、土壌の中の養分が過剰になっている水田や

畑が多くなってきています。そのような水田や畑の土づくりは、過剰になった栄養分

を抑えることや、健全な野菜を育てるためにバランスのとれた土に戻してやること

なのかもしれませんが、そう簡単にはいきません。


「土づくり」は人の「健康づくり」に他ならないことを認識していただき、正しい

土づくりを実行するための知識を身に付けていきましょう。


次回からは、土の機能や仕組みについて紹介していきたいと思います。